気象庁が「これまでにないような大雨」と表現した大雨の影響で、熊本や大分などが多くの被害が見らました。各報道機関は次のような解説をしていました。
名古屋大学の坪木和久教授は「梅雨後半に発生する典型的な大雨でこういったことは起こりやすいという。梅雨前線の間に湿舌が流れ込み阿蘇山にぶつかり上昇したことで大雨になったという。」
テレビで気象予報士の鈴木勝博氏が今回の大雨について解説を行いました。「梅雨前線が停滞する事により、湿った空気「湿舌」が九州地方に流れこみ、発達した雨雲を発生させた。これにより熊本・阿蘇乙姫では1時間100ミリ以上の雨を観測した。」
しかし、次のような見解を示している天気予報氏もおられました。
気象庁は湿舌を「高度3km付近の舌状にのびた湿潤な領域」と定義しています。最近の研究では、集中豪雨をもたらすのは、主に上空500メートル付近の暖湿流(暖かく湿った空気の流れ)だということが分かっていて、湿舌を意味する上空約3000メートルの湿潤域は雨雲を励起させる直接的な理由になりません。
気象庁は3年前、一般利用者の目線に立った明確さや平易さを目指して、有識者や国民の意見等をもとに、約10年ぶりに予報用語の改正を行いました。この時「猛暑日」という単語が生まれました。
この見直し項目の中に、実は「湿舌」の定義も含まれていました。
変更された点を簡単に言えば、「下層に舌状に延びた湿潤な領域」から「高度3キロ付近の舌状に延びた湿潤な領域」という記述になり、より具体的になりました。
この変更で、集中豪雨の原因に湿舌を用いることが不適当となり、3年前まで通用していた解説方法は、それ以降、古く誤った内容となってしまったのです。ここは正確さを第一義とする報道として無視できないポイントです。
(新井気象予報士の空はきまぐれ のトップ)